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なぜ今、AI×BPOが熱いのか? イベントレポート ー 業界リーダーが語る戦略と展望

こんにちは、Dev HRのNarisaです。
生成AIの爆発的な普及は、BPO(Business Process Outsourcing)の在り方に大きな変革をもたらしています。従来「人手による業務代行」が中心だったBPOにAIが組み合わさることで、精度・速度・スケーラビリティの概念そのものが刷新され、企業の競争力に直結する領域へと進化しつつあります。

2025年9月2日にYouTube Liveで開催された「なぜ今AI×BPOが熱いのか」では、kubell、UPSIDER、LayerXの3社が登壇し、それぞれの事業戦略や市場の現状認識、そしてAIがもたらす未来の働き方について議論を交わしました。モデレーターはNewbee代表の蜂須賀大貴氏。事前に用意された台本はなく、まさに「忖度なし」で語り尽くすセッションとなりました。

本イベントには当社VPoPの森(@diceK66)もパネリストとして参加し、現場で直面するリアルな課題感や、UPSIDERでの実践をもとに意見を交わしました。当日のディスカッション内容をレポートとしてまとめましたので、ぜひご覧ください!

アーカイブ動画

www.youtube.com

イベントページ

newbee.connpass.com

登壇者紹介(イベントページより引用)

桐谷 豪 | 株式会社kubell 執行役員CSO 兼 インキュベーションディビジョン長

大学在学中より創業フェーズのスタートアップに参画し、ジョイントベンチャー設立や複数事業の立ち上げに従事し、ユニコーン企業へ。その後、AI系ベンチャーである株式会社ABEJAへ入社し、データ関連サービスの事業責任者を担う。2020年10月に株式会社kubell(当時 Chatwork株式会社)に入社し、BPaaSのサービス立ち上げ責任者を務めたのち、2024年1月より執行役員に就任。インキュベーション領域を管掌し、新規事業の推進とR&Dを担当。2025年7月に執行役員CSOに就任。

X: @go_kiritani

森 大祐 | 株式会社UPSIDER VPoP / AI事業責任者

新卒で株式会社ワークスアプリケーションズに入社後、会計システムを中心として、大手企業のERP、業務システムの開発をリード。いくつかのキャリアを経て、PKSHAグループにて複数のAI SaaSを立ち上げ、それらのプロダクト企画統括を務める。主に、自然言語処理を活用した、人とAIとの協働型プロダクトの企画を得意とし、国内大手コールセンターの自動化プロダクトや、職場コミュニケーションのチャット化・自動応答などで数多くの成果を収める。2023年に株式会社UPSIDER入社。VP of Productを務める。

X: @diceK66

秋葉 佑哉| 株式会社LayerX AI-BPO事業責任者 / プロダクトマネージャー

大手不動産会社での営業職を経て、ギフトEC「TANP」にて一人目エンジニア兼プロダクトマネージャーとして従事。その後、ラクスル株式会社に入社し、プロダクトマネージャーとして事業立ち上げや新規事業責任者を歴任。 2024年4月に株式会社LayerXに入社し、現在はAI-BPO事業の責任者を務める。

X: @yuyaki0618

蜂須賀 大貴 | Newbee株式会社 代表 / プロダクトマネージャー

IMAGICA Lab.でエンジニアとしてキャリアを開始後、複数企業でプロダクトマネジメントおよび開発組織の立ち上げに従事。サイカではHead of Productとしてプロダクト戦略をリードし、事業成長に貢献。PIVOTではプロダクトマネージャーとして立ち上げ期のプロダクト組織づくりを担い、成長企業特有の課題解決に取り組む。  アジャイル開発・プロダクトマネジメント分野での登壇実績も豊富で、Developers Summitへは4年連続で登壇、BacklogWorld2024では基調講演を務めるなど、年間20件以上の講演・ワークショップを通じて実践知の普及に尽力。また、「アジャイル開発とスクラム 第二版」では第8章を執筆。  現在はテクノロジーメディア「Newbee」の運営とプロダクトマネジメント、開発組織構築支援で複数社の事業成長に貢献。

X: @PassionateHachi

AI活用の現状とBPOの役割

議論の冒頭で浮かび上がったのは、AI活用がなかなか進まない現状です。生成AIは社会に急速に浸透しているものの、実際に成果を出している企業はまだ一握りに過ぎません。その背景には大きく二つの壁が存在すると登壇者たちは口を揃えました。

一つ目はコストとリソースの壁です。高性能な大規模言語モデルを導入するには巨額の初期投資と維持費が必要であり、加えてそれを事業に組み込み使いこなす人材が不足しています。

二つ目は、セキュリティとガバナンスの課題です。AI導入にあたっては情報管理やコンプライアンスへの懸念も常に存在しますが、今回のセッションでは主に「人材不足」と「運用ノウハウの欠如」といった最初の壁に焦点が当てられました。 こうした課題に対し、AI×BPOは現実的な解決策として位置づけられます。高度なAI技術を備えたBPOベンダーがコストやセキュリティ体制を引き受け、AIに精通した人材を配置することで、顧客企業はリスクを最小化しつつ本業に集中できる。単なる業務の外注ではなく、AIを前提としたオペレーションを丸ごと提供するのがAI×BPOの本質だと示されました。

各社の戦略と強み

登壇した3社は、それぞれ異なる強みと戦略でAI×BPO市場に挑んでいます。

kubell:SaaSBPOのハイブリッドモデルで顧客の多様な課題に応える

kubellのAI×BPO事業の核心は、長年培ってきたビジネスチャットプラットフォームという強固なインフラにあります。桐谷氏は、kubellのサービスが単なる業務代行に留まらない点を強調しました。SaaS(Software as a Service)としてのツール提供と、BPOとしての人的支援を組み合わせることで、顧客の多様な課題に柔軟かつ包括的に応えるハイブリッドモデルを構築しているのです。

このモデルの強みは、顧客の事業フェーズや業務内容に応じて、最適なソリューションを提供できる点にあります。例えば、ツールだけでは解決できない複雑な業務プロセスには、専門のオペレーターが介入してサポート。一方、定型的な業務はAIとSaaSで効率化します。これによりツール導入後の運用定着率を高め、顧客の生産性向上に一貫して貢献することが可能です。これを「BPaaS(Business Process as a Service)」と表現し、業務プロセス全体をサービスとして提供する新しいビジネスモデルとして位置づけています。経理労務、採用、営業事務といった幅広い領域でこのモデルを展開することで、企業全体の効率化を支援しています。

UPSIDER:FinTechを武器に「AI前提のオペレーション」を外部提供

UPSIDERのAI×BPO事業は、FinTech企業としてのバックグラウンドを最大限に活用した独自性の強いものです。ターゲットとするのは、法人カードや融資サービスを提供する中で見えてきた、中小企業(SMB)が抱える経理業務の深い課題です。

森は、同社のAI経理事業の根幹にあるのは「AIを前提としたオペレーション」だと語りました。これは、単にAIツールを導入するのではなく、最初からAIが中心となる業務フローを設計する考え方です。社内ではAIエージェントを内製し、これを活用した「精鋭組織」を形成しています。人間とAIが協業することで、従来では考えられなかったレベルの高効率な業務フローを実現し、その独自のノウハウを外部に提供することで、複雑で属人化しやすい経理業務の自動化と効率化を図っています。

森が言及したfreeeのAI×BPOパートナー第一号認定は、技術力とノウハウが業界で高く評価されている証拠と言えるでしょう。この戦略により、UPSIDERは単なる業務代行業者ではなく、企業のバックオフィス変革をリードするパートナーとしての地位を確立しようとしています。

LayerX:SaaSBPOを両輪で回し、業務の標準化とデータ一元管理を実現

LayerXのAI×BPO事業責任者である秋葉氏は、同社の哲学を「単なる代行ではなく、業務プロセス自体の改善」と語りました。彼らは、法人支出管理や人的資源管理などの業務効率化AIクラウドサービス「バクラク」を起点に事業を展開していますが、その目的はSaaSを売ることだけではありません。多くの企業が抱える「属人化」と「データがバラバラに存在している」というバックオフィス業務の根本的な課題を解決することに焦点を当てています。

秋葉氏によると、AI×BPOはAIの力を借りて業務を標準化し、散在するデータを一元管理するための重要なステップです。SaaSである「バクラク」が業務プロセスを可視化し、標準化する基盤を提供し、AI×BPOが日々の運用を効率化することで、この両輪を回すアプローチがLayerXの強みとなっています。

例えば、請求書処理一つをとっても、AIが自動で内容を読み取り、人間が確認・承認するフローを構築することで、作業の効率化だけでなく、データの精度向上とガバナンス強化を実現しています。これは、企業のバックオフィス業務を根本から変革し、未来の成長に向けた強固な基盤を築くための戦略と言えるでしょう。

AI時代の人材戦略

AIが進化する中で、人間の役割はどう変わっていくのでしょうか。登壇者全員が共通して強調したのは、「AIを使いこなせる人材」の重要性です。

kubellの桐谷氏は、AIの導入が「オペレーターからAIのプロンプトを考える人」への役割シフトを促すと述べました。単純な入力作業や定型業務はAIに任せ、人間はより創造的で付加価値の高い業務に集中できるようになります。AIと協業しながら業務を進めることで、従来の生産性を超える「スーパーオペレーター」が生まれると述べました。

LayerXの秋葉氏も、AI活用を前提とした「精鋭組織」の構築に言及。AIを積極的に活用する人材を育成し、業務効率を最大化する戦略を語りました。これはAIが人間の仕事を奪うのではなく、むしろ人間がAIを道具として使いこなすことで、より高度で生産的な働き方を実現できるというポジティブな未来像を示しています。

UPSIDERの森氏は、AIによって膨大な意思決定や作業を高速に処理できるようになった一方で、個別のアナログ対応に依存すると属人化のリスクを招くと警鐘を鳴らしました。そのうえで、課題を構造化しシステム志向で解決すること、さらに垂直に業務を深掘りしながら水平に価値や仮説を広く持つ視点を組み合わせることが、再現性と持続性のある仕組みづくりにつながるとまとめました。

最後に:AI×BPOが描く未来

今回のイベントを通じて明らかになったのは、AI×BPOが単なるコスト削減のための外注手段ではなく、企業の業務オペレーションを根本から刷新するパートナーシップであるということです。kubellはBPaaSモデルによる包括的支援を打ち出し、UPSIDERはAIを前提に設計されたオペレーションを外部に提供し、LayerXは業務標準化とデータ一元管理を通じてバックオフィス基盤を強化しています。

アプローチは異なれど、3社に共通していたのは「AIを前提に、人とAIの協業で新しい働き方を創造する」というビジョンでした。AIと人間が役割を補完し合うことで、従来の効率化を超えたスピード感とイノベーションが実現されつつあります。

おわりに

生成AIの進化は日進月歩であり、その活用法は企業によって千差万別です。そしてツール選定より“運用の設計”が競争力を左右します。今回のセッションでは、AI×BPOの最前線で実際に行われている戦略と試行錯誤が率直に共有され、これからAIを取り入れたいと考える企業にとって豊富な示唆が詰まった1時間となりました。

ご視聴いただいた皆さま、ありがとうございました!
本レポートをきっかけに関心を持たれた方は、各社の取り組みをぜひチェックしてみてください。

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