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不確実性の中でUPSIDERカードチームが「悩みながら選び続ける」4つのトレードオフ

こんにちは、法人カード「UPSIDER」(以下、UPSIDERカード)開発チームのShunsukeです!

これは、UPSIDER Tech アドベントカレンダー 2025の12月8日公開の記事です。

UPSIDERのアドベントカレンダー2025 では、Tech・Corporate・Bizの3つに分かれて、それぞれのチームメンバーが日替わりでさまざまな内容をお届けします。

Techはこちら: UPSIDER Tech Advent Calendar 2025 - Adventar
Corpはこちら: UPSIDER Corp Advent Calendar 2025 - Adventar
Bizはこちら: UPSIDER Biz Advent Calendar 2025 - Adventar

カードチームはUPSIDERカードのお客様向け機能の管理をしています。

はじめに:「綺麗な正解」のない場所で、価値を届け続けるために

お客様にとって最も重要なこと。それはシステム内部の事情ではなく、「安定して価値が届けられること」そのものです。金融サービスとして求められる極めて高い信頼性と、スタートアップとしての迅速な機能提供。私たちは常にこの両立を求められています。

しかし、開発現場の現実は綺麗事だけではありません。「すべてが整地された理想的な環境」は、急成長する事業の中ではいつまで経っても訪れません。前提が変わり続ける状況では、何を守り、何を捨てるのかという判断が日々発生します。
完璧なコントロールは不可能であることを前提に、それでもコントロール可能な領域を広げていく。そのために選択を積み重ね続けているのが、私たちの現在地です。

本記事では、UPSIDERカードチームが直面しているリアルな課題と、悩みながらも向き合い続けている「4つのトレードオフ」についてお伝えします。

1. UPSIDERカードチームの現在地

私たちは、単なるカードや決済の管理、請求管理だけでなく、本人確認などの審査や会計など、金融サービスとして必要な広範なドメインを1つのチームで開発・運用しています。

※ 他にもさまざまな機能があり、表に記載しているのは主要機能です。

それに加え、急成長するFintech領域では重要タスクが継続的に発生しやすい特性があります。事業を加速させる新機能開発、法令や各種仕様の変更への対応、セキュリティを高めるための基盤刷新。

立ち止まることが難しい状況下でも、私たちは完璧な正解がない問いに対し、意思決定を繰り返しながら前進しています。

2. 現実と格闘する「4つのトレードオフ」

すべての選択には代償が伴います。私たちはどのように悩み、何を基準に決断しているのか。その等身大のアプローチをご紹介します。

トレードオフ①:開発スピードと知識共有

【ジレンマ:短期的な「爆速」と中長期的な「加速」の狭間で】

広大な金融ドメインにおいて、目の前の実装速度だけを求めて「個人の突破力」に頼ると、特定メンバーへの「属人化」が加速します。一方で、「チームの共有」は一見すると速度を落とすように感じられますが、知識が分散されることで手戻りが減り、結果として中長期的な開発スピードが上がるという側面もあります。

【現在のアプローチ:リスクに応じた使い分けとAIによる補完】

  • 状況による使い分け
    • 速度を戦略的に優先する時(個人の突破力)
      • 対象: 短命な機能や使い捨ての機能、検証目的のプロトタイプ、またはリスクが極めて限定的な領域。
      • アクション: 「速度優先」と割り切り、一時的な属人化を許容して、個人の突破力で最短でのリリースを目指します。
    • 共有を必須とする時(チームの共有・リスクヘッジ)
      • 対象: 決済や請求などのコア機能、長期的なメンテナンスが必須な領域、変更による影響リスクが大きい領域。
      • アクション: 属人化を防ぎ、チーム全体の知識レベルを底上げするために、同期的なタスク分解やモブプログラミングを積極的に取り入れます。これにより、手戻りを未然に防ぎ、特定の誰かが不在でも開発が止まらない強固なチーム体制を維持します。
  • AIによる探索コストの削減
    • ドキュメントが完璧でなくても、AIツール(例: CursorやClaude Codeなど)がコードから仕様を読み解けるよう、共通プロンプトやルールを整備しています。「人が教えるコスト」をAIで代替し、実装の手を止めずに知識の冗長性を維持する取り組みです。正確性の課題はあり、あくまで当たりをつける補助の前提ではありますが、膨大なドメイン知識や複雑な実装の中なのでとても強力な武器となっています。

トレードオフ②:全体最適と事業速度

【悩み:理想の基盤への移行を待てない目の前の商機】

現在、プレスリリースで公表している外部提供可能な法人カード基盤を、継続的に拡張しています(参考:2025年7月公開の公式プレスリリース)。 UPSIDERカードに存在する技術的負債を、このカード基盤側で順次解消してから新機能の開発を行うことが理想ですが、事業スピードを踏まえた判断が必要になります。「理想的な全体最適」と「目の前の商機」の板挟みは日常茶飯事です。

【現在のアプローチ:将来の合流を見越した先行実装】

  • 理想を意識する軸: 「作り捨て」を避け、将来の新基盤への移行容易性を前提にデータ設計を行います。新基盤チームとは継続的に同期し、設計の乖離を防ぎます。
  • 商機を優先する軸: 「きれいな全体最適」を待つのではなく、将来的な捨てやすさ・移行しやすさを担保した上での「先行実装」を選びます。合流コストが低い領域に限り、新基盤の仕組みを限定的に先行採用し、事業スピードを落とさずに価値を提供します。

トレードオフ③:金融品質 と デリバリー頻度

【ジレンマ:金融の「超高品質」とスタートアップの「爆速」の両立】

金融領域として極めて高い品質水準が求められる一方で、スタートアップとして高い提供スピードも維持しなければなりません。私たちはこのジレンマを「対立」ではなく、両立させるための「挑戦」と捉えています。

【現在のアプローチ:ガードレールと攻め手の戦略的な組み合わせ】

人の「注意深くやる」努力に依存するのではなく、「転んでも致命傷にならない」ための強固な自動化されたガードレールを構築し、その安全圏内で小刻みに攻める戦略を模索しています。

  • ガードレールを発動する時(Quality/信頼の確保)
    • SLO(信頼性)低下時: 重要な指標が一定の基準を下回った場合には、信頼性の回復を優先するプロセスを設けています。
    • E2Eテスト失敗(自動検知): クリティカルな機能に対する厚いテストが失敗した場合、リリースを自動的にブロックします。
    • 大規模な変更: 影響範囲が予測しづらい大規模な変更は、リスクが高いと判断し、より慎重な検証プロセスを経ます。
  • 小刻みに攻める戦略を取る時(Delivery/頻度の維持)
    • 影響範囲が小さい / ガードレール内: 変更の影響が限定的で、既存のテストやSLOの監視下にある(ガードレール内)と判断できる場合。
    • 段階的リリース: ビッグバンリリースを避け、機能トグルなどを活用して影響範囲を限定しながら段階的にリリースを繰り返します。これにより、万が一の問題発生時も被害を最小限に抑えつつ、継続的な価値提供を実現します。

トレードオフ④:新規開発 と 運用負荷(Toil)

【悩み:運用の緊急対応で新規開発が食いつぶされる】

問い合わせ対応やデータ補正などの「Toil」は、放っておくと雪だるま式に増えます。機能開発を進めたい一方で、突発的な運用タスクにリソースを割かざるを得ない日もあり、短期的な事業貢献と中長期的な生産性維持のバランス調整が常に求められます。

【現在のアプローチ:運用の「シフトレフト」とROI判断】

運用を別部隊任せにせず、開発チームが担うことで、現場の課題を設計にフィードバックを。

  • 事業要件を優先する時(ROI判断による事業貢献)
    • 売上/価値提供タスク優先: 顧客への重要な価値提供と売上につながるタスクを優先します。
    • 事業上の緊急タスク・法対応/期限付き: 期限が明確で重要度が高いタスクは、他の開発や自動化タスクを後回しにしてでも最優先で対応します。
  • 未来への投資(自動化)を選ぶ時(Ops/自動化・シフトレフト)
    • クリティカルな痛み/将来リスクの回避:将来的に大きな運用負荷やサービスリスクにつながり得る課題が明確な場合には、短期的な機能開発よりも、持続的に価値を提供できるようにするための自動化・ツール化へ優先的に投資する判断を行います。

3. 求めるのは「整地」ではなく「開拓」を楽しむエンジニア

より整った環境での開発を志向される方にとっては、現在のUPSIDERは変化や要件調整が多く、複雑に感じられる場面があるかもしれません。しかし、自分の判断で事業を前に進めたいエンジニアにとっては、裁量を活かしながら幅広い領域に挑戦できる環境です。

UPSIDERカードチームで得られる経験

  • ドメインの広さ: 金融システムの「点」ではなく「面」全体を見渡せる視座が得られます。
  • 裁量の大きさ: 「新基盤か独自か」「どこを自動化するか」といったアーキテクチャ選定の権利が現場にあります。
  • 手触り感: 自分が下したトレードオフの決断が、リードタイム短縮やプロダクト改善に直接影響しやすい環境です。

私たちが求める挑戦者像

  • 不確実性をハンドリングできる方: 仕様が未確定でも関係者と対話し、着地点を自ら探りにいく。
  • トレードオフを前提に決められる方: 「正しさ」より「届くこと」を重視し、ROIで合意を取り、現実的な打ち手を選べる。
  • 現場の手触りを楽しめる方: 運用から弱点を学び、即座に設計へフィードバックするサイクルを回せる。

終わりに

要件は日々変化し、完全に整ったシステムは現実にはほとんどありません。存在するのは、状況に応じた設計、運用、アーキテクチャ選択、そしてチームとしての判断だけです。 多くの課題と不確実性の中で事業を前に進めるために、裁量を活かしながら幅広い領域の挑戦をしたい方。興味をお持ちいただけましたら、ぜひカジュアル面談でお話しさせてください!

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