UPSIDER Tech Blog

未来のFintechインフラはどうつくられるのか?──UPSIDERの技術戦略とプラットフォーム構想

こんにちは、UPSIDERでVPoEを務めている泉(@yizumi)です。

先日、代表の宮城がUPSIDERの激動の半年間の舞台裏と未来のことを綴ったブログがでました。 note.com

本ブログでは、UPSIDERの技術面での進化とこれからのチャレンジについて、僕の視点からも書いてみたいと思います。プロダクトの集合体として成長してきたUPSIDERが、いかにして「社会インフラ」へと進化しようとしているのか、その構想と現場のリアリティについて、お伝えできればと思います。

法人カードイシュアーから「金融プラットフォーム」へ

UPSIDERはこれまで、法人カード「UPSIDER」や「PRESIDENT CARD」といった自社ブランドカードの成長を軸に、決済・与信・請求回収といった金融プロダクトを開発・展開してきましたが、いま大きな進化のフェーズを迎えています。端的に言えば、私たちは「法人カードイシュアー」から「金融プラットフォーム」へと進化を遂げつつあります。

これまでUPSIDERは、1つのプロダクトに完結する形で「カード決済基盤」「与信基盤」「請求・回収基盤」といった金融機能を内包してきました。しかし現在、それぞれの基盤を既存システムから分離し、独立したサービスとして再構成・再定義し、外部向けにも開放可能な形に再設計しはじめました。 たとえば「カード決済基盤」は、VISAからのリアルタイム電文処理や不正利用の検知といった役割を果たしてきたシステムです。これを外部にも開放し、他社ブランドのカードプロセシングにも対応できるように進化させていきます。

「与信基盤」は、数万社に及ぶ連携データをベースに、独自の機械学習モデルによってランウェイやキャッシュフローをシミュレーションし、日次での途上与信や限度額管理を実現するものです。このモデルは、個社ごとの情報を学習用データとして直接外部に共有することなく、全体の傾向を把握・反映する設計になっており、プライバシー保護や情報セキュリティの観点にも十分配慮しています。すでにみずほ銀行との合弁会社「UPSIDER Capital」のデットファンド「UPSIDER BLUE DREAM Fund」においても、貸出しのモニタリング基盤として実用化されています。今後は、この与信機能も統合的な法人信用データベースとしてオープン化し、より広範な信用評価の土台となることを目指しています。

これらの基盤は、いずれもUPSIDERの中核として磨き込んできた技術資産ですが、今後はそれぞれをサービスとして切り出し、組み合わせ可能な構成要素として提供していくことで、「UPSIDERブランドのカードを運営する会社」から、「多様な法人カードブランドを安全かつ高速に扱える金融プラットフォーム」へと価値をシフトさせていきます。

この変化は、単なる技術構造の変化にとどまらず、ビジネスの捉え方そのものの変化でもあります。カードという表層の体験を超えて、挑戦者の資金繰りやリスクマネジメントといった、より本質的な経済活動を支える存在になろうとしているのです。

複数ブランドに対応するための技術構造改革

UPSIDERが「金融プラットフォーム」へと進化する中で、最も重要な技術課題のひとつが、複数ブランドへの対応です。従来の「1システム=1ブランド」設計から脱却し、「1システム=複数ブランド」に耐えうる構造への転換が求められています。

この改革においては、まず決済基盤や請求回収基盤に「ブランド認識(Brand Aware)」の概念を組み込みます。すべての処理リクエストに brandId を付与し、ブランドごとに異なるルールや設定を適用可能にすることで、同じ基盤上でも多様なカードブランドを並列に扱えるようにします。不正検知や会員管理なども、ブランド単位でインスタンスを分離する設計に移行していきます。 加えて、セキュリティ面ではブランド間の境界を明確に保つため、データベースやネットワーク帯域の分離も視野に入れています。

一方で、与信基盤については「法人単位での統合管理」が必要です。カードの利用履歴とDebt Financingの返済実績をまとめて評価できるようにすることで、より的確でスピーディな与信判断が可能になります。

堅牢な共通基盤と、多様で柔軟なブランド体験。この両立こそが、UPSIDERがプラットフォーマーとして果たすべき技術的役割であり、その実現に向けた構造改革が今まさに進行しています。

信用の可視化と、不正利用の最小化──社会インフラとしての責任

技術投資の先にあるのは、社会的なインパクトです。僕自身が強く意識しているのは、以下の2点です。

  • 法人信用データベースの実現

  • 法人カード決済のリアルタイム不正検知

UPSIDERは現在、数万社の企業と連携し、年間数千万件の決済トランザクションを扱っています。これを10万社規模に拡大し、Executive Graphや業種別の決済傾向などのデータを用いた「信用インフラ」を構築することで、これまで見えなかった法人の信用力を即時に可視化できるようになります。

不正利用を下げたり、より少ないデータでも適正な与信が客観指標で瞬時に出せることができれば、挑戦者の調達コストを下げ、健全なリスクマネーを増やすことができるのではと考えております。そんな循環を、技術の力で生み出していきたいと思っています。 企業が成長フェーズで抱える資本コストが軽減できれば、挑戦そのもののハードルも下げることができると考えています。

「忍者と侍」──俊敏さと堅牢性を両立させるUPSIDERの開発文化

FinTech領域で成功するために必要なのは、Agility(俊敏さ)とReliability(堅牢性)のどちらかを選ぶことではなく、この両方を兼ね備える“両刀”であるべきだと考えています。

自分は、クレディセゾンCTOの小野さんが用いている「忍者と侍」というアナロジーがとても好きです。アーキテクチャ、プロセス、文化といった観点で、ひとつの絶対的な正解を求めるのではなく、それぞれの特性に応じた“グラデーション”を意識することが重要だと感じています。

「忍者」は、身軽に俊敏に動き、顧客ニーズに素早く応えるフィーチャーのデリバリーに責任を持つ存在です。Fail Fastの姿勢でディスカバリーフェーズを伴うようなプロダクト開発に挑み、Feature Flagを使ってクローズドベータテストでの素早い検証を繰り返す──そんなスピードを重視した開発カルチャーを体現しています。当然、セキュリティ要件を満たすことが前提であるのは言うまでもありません。

一方の「侍」は、重厚で安全性を何より重視する存在です。たとえば台帳の仕組みや、トランザクションセーフな設計、取引明細の正確な管理などを担うチームにおいては、段階的なリリースプロセスやストレステストを通じて、堅牢性・スケーラビリティを最大限に担保する必要があります。セキュリティにもより高い水準での注意が求められる領域です。

結局のところ、この「忍者」と「侍」、両端の姿勢を組織として持ち合わせているからこそ、UPSIDERは膨大な取引を安全に処理しながら、ユーザーニーズに対して俊敏に応えるUXを提供し続けてこられたのだと思います。そして、まさにそれこそが、我々がFinTechの世界で存在する意義なのではないかと感じています。

「違い」を力に変える──異なる役割の自然な連携

「忍者」と「侍」という二面性は、どちらが優れているかという比較ではありません。それぞれが担うシステムの特性を深く理解し、互いにリスペクトしながら、最終的に「より良いサービスをユーザーに届ける」という共通の目的を果たすことが何よりも重要だと感じています。

たとえば、最近リリースした「カードの再発行」プロジェクトでは、ユーザーの有効期限切れに伴う再発行の対応に加えて、長年実現したかった「PIN番号の指定」機能をぜひ盛り込みたいと考え、設計に工夫を凝らしました。ただし、それを実現するには、カードのライフサイクルを管理するプロセッサーチームと、モバイル/WebのUXを担うカードチームの密な連携が不可欠でした。

プロセッサーチームは、PCI-DSS準拠の要件に対応するため、HSMによる暗号化方式の選定やセキュリティ制御など、まったく異なるアプローチでシステムの深層を設計しています。一方カードチームは、ユーザー体験を磨くためにステークホルダーと議論を重ねながら、画面設計や動線にこだわって開発を進めます。

こうしたコラボレーションは、何もこのプロジェクトに限った話ではありません。不正利用検知のように、UXの工夫と基盤技術の高度な連携が求められる開発も多く存在します。System-of-Recordsのような堅牢性を重視する領域と、System-of-Engagementのような柔軟さや体験価値を重視する領域では、技術選定もリリースプロセスも大きく異なります。その違いを認識したうえで、自然と協力し合うカルチャーがすでに根付きつつあり、今後ますます重要になってくると考えています。

ちなみに僕は、黒と茶色の靴で迷ったら、どちらも買うタイプです。

リスクマネーを動かそう──日本の挑戦者に資金を届けるために

UPSIDERのミッションは何か?と問われたとき、私は「挑戦者にリスクマネーを流し込むこと」だと明確に答えます。これをやり切らない限り、我々が存在する意味はないとさえ思っています。

日本においても、10〜20年前に比べればリスクマネーは確実に増えてきました。ただ、まだまだ挑戦に必要な資金が、依然として届きづらい。これは、構造的に解決すべき社会課題だと感じています。

私たちはその解決に、テクノロジーの力で挑もうとしています。

鍵になるのが、「クレジットシステム」の確立と「不正利用の抑制」です。まず、与信の精度を高めることで、無理のないリスク判断が可能になります。これによりROA総資産利益率)が改善され、結果としてUPSIDERの資本コストも下がっていく。逆に言えば、不正利用を放置すればROAが悪化し、私たちが支援したい企業の調達コストも上がってしまう──これは絶対に避けなければならない。

テクノロジーで資金コストを下げる。挑戦者の調達環境を整える。リスクを見える化し、フェアに分配できる土台をつくる。

こうした取り組みを通じて、日本の挑戦者がもっと自由に、もっと早く、未来へ向けてアクセルを踏めるようにしたい。そしてその流れを、日本全体の成長軌道に接続していきたい。私たちが目指す「挑戦者を支える世界的な金融プラットフォーム」は、単なる金融インフラではなく、経済の健全な循環を生み出す「仕組み」そのものです。
その未来を技術の力で引き寄せる──それが、これから1〜2年、UPSIDERの技術組織が本気で取り組んでいくテーマです。

社会の根っこを書き換える。次のインフラは、あなたのコードから始まる

UPSIDERは、プロダクト企業を超えて「経済の基盤」をつくる企業になろうとしています。まだまだ道半ばですが、だからこそ、面白いフェーズだと思っています。

そしてUPSIDERはその変化を、次の10年を、共に作り上げてくれる仲間を探しています。

構想だけでは終わらせない。言葉で語るだけでなく、手を動かして、仕組みを動かし、社会を前に進める。そんなエンジニアと出会えたら嬉しいです。 あなたと未来の話ができることを、心から楽しみにしています!

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