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現場を離れたCTOが再発見した「マネジメントの原点」── EMゆるミートアップ Warm-up Party

こんにちは。UPSIDERで支払い.com事業部CTOをしている赤沼(@akanuma)です。

2026年2月17日に開催された「【EMConf JP 2026サブイベント】Warm-up Party by EMゆるミートアップ」にて、「現場を離れたCTOが再発見したマネジメントの原点」というテーマで登壇しました。

本記事では、発表内容の振り返りと、当日語りきれなかった補足をお届けします。

イベントについて

「EMゆるミートアップ」は、エンジニアリングマネージャー同士がゆるくディスカッションや交流を行う勉強会です。「ゆるい雰囲気、真面目な中身」をモットーに、多様なフェーズ・文化をバックグラウンドに持つEM間での交流を通じた「自己開示と傾聴、相互理解」の実践の場を目指しています。

今回は3/4開催のEMConf JP 2026のプレイベント「Warm-up Party」として、渋谷の令和トラベルさんのオフィスで開催されました。

当日は3名の登壇がありました。

  • ちゃんさん(@chan_san_jp「背中を押すマネジメント ― 人が動く瞬間をつくる触媒」 ソニーグループ、スタートアップを経て、ゲームエイトで複数社のCTO/VPoEを歴任されてきたちゃんさんによる、メンバーが自ら動き出す瞬間をどう作るかについてのトーク。
  • 赤澤 剛さん(@go0517go「歴史に敬意を! パラシュートVPoEが組織と共同で立ち上がる信頼醸成オンボーディング」 ワークスアプリケーションズ、LINE、アルファドライブ等を経て、2024年2月にタイミーにVPoEとしてジョインされた赤澤さんによる、外部からマネジメント層として参画する際の信頼構築についてのトーク。
  • 赤沼 寛明(@akanuma「現場を離れたCTOが手を動かし再発見した『マネジメントの原点』〜ハンズオンと組織視点を行き来した1年の物語〜」

3名ともマネジメントにおける「信頼」や「現場との距離感」に通じるテーマで、互いの発表が共鳴し合う濃い時間になりました。

発表の背景:「マネジメントに専念する=現場から離れる」なのか?

今回の発表の根底にある問いは、「マネジメントに専念するということは、現場から離れることを意味するのか」 というものです。これは私自身がずっと悩んできたテーマでもあります。

私は前職のユニファで取締役CTOを約10年務めた後、2025年4月にUPSIDERの支払い.com事業部CTOとして入社しました。前職での後半の半分以上の期間は、直接的にはプロダクト開発には関わらず、組織や経営に特化した形でした。

この転職をきっかけに約10年ぶりに「現場で手を動かす」ことに向き合い直すことになり、そこで気づいたことをお話ししました。

現場から離れていった10年間

前職では1人目の正社員エンジニアかつ唯一のフルタイムエンジニアとして入社しました。開発も障害対応も全部自分でやりつつ、採用活動も並行して進める日々。目線は100%現場でした。

2年目にCTO候補として入社していたところから正式にCTOに就任。就任時の全社ミーティングで「取締役になったからといって偉くなるわけではなく、今まで通りのスタンスでやります」と言ったのを覚えています。ただ今振り返ると、これは視座が低かったなと。取締役になったからには経営者としての目線を持って動き方を変えるべきでしたが、当時はまだその視座がありませんでした。

メンバーからの一言で「実装」を手放した

転機になったのは、あるメンバーとの1on1でした。

「そろそろ赤沼さんはコードを書かずに、マネジメントに専念しても良いのではないですか?」

ネガティブなニュアンスは全くなく、役割としての提案でした。実は私自身も葛藤していたことではありました。実装タスクを持つと経営や組織関連のミーティングで時間が取れず、レビューやマージのボトルネックになってしまう。一方で、実装から離れることで技術力が落ちていく怖さもありました。

メンバーがそれで良いと思ってくれるならばと吹っ切れて、「実務をメンバーに委ねる」という決断をしました。実はこの話、当時は「適切に役割を移譲できた成功談」として外部のイベントでも何度か発表していたんです。

ですが今になって思えば、本番のコードから離れるのが少し早すぎたと思っています。関わり方を変えたとしても、もっと開発の実務に入り続けるべきだったなと。

離れることの合理性と、じわじわ溜まった「モヤモヤ」

一方で誤解していただきたくないのは、離れること自体には当時合理性があったということです。CFOの参画もあって経営体制を強化する中で経営の考え方を学び、CTOコミュニティや外部イベントで多くのことを吸収できました。自分が関わらなくてもプロダクトが育つ「自走する組織」が作れたことも事実です。

しかし時間が経つにつれ、自分の中に「モヤモヤ」が溜まっていきました。

  • 新規プロダクトが立ち上がる中で、仕様やアーキテクチャが現場に聞かないとわからない状態
  • 経営会議で何かを主張しようにも、ファクトに基づいた「自分の言葉」としての自信が持てない
  • 単なる現場と経営の「情報の仲介者」になっている感覚
  • 技術ブランディングの発信も、技術的な関わりがないため組織論の同じようなテーマばかり

天秤に例えると、最初は現場目線に完全に傾いていたものが、最終的には経営目線に完全に傾いた。両極端だったと言えます。

「危機感」から現場に戻る決断

なぜ現場に戻ることを重視したのか。一言で言えば「危機感」です。

前職での役割を続ける選択肢もありましたが、AIの進化をはじめ環境の変化のスピードが速い中で、46歳という年齢も考えると、このまま現場や技術の解像度が低い状態でしばらく経った後に次のキャリアを考えた場合、CTOとしてジリ貧になるのではないかと思いました。

だからこそ、前職で獲得した経営の目線を活かしつつ、自分がプレイングマネージャーとして動ける「支払い.com」事業部のCTOというポジションを選びました。

「事業軸」と「Tech軸」の両面でキャッチアップ

現場に戻ると言ってもコードさえ書ければ良いわけではありません。金融・Fintechドメインは未経験だったため、事業軸(ドメイン知識、事業予算、事業戦略、組織課題)とTech軸(アーキテクチャ、コード、インフラ、開発プロセス、メンバーのスタンス)の両面で手を動かしてキャッチアップすることを意識しました。

入社前にはCTOが担う可能性がある役割やタスクの観点を幅広く書き出した「CTO Roles & Tasks」というタスクマップも作成し、GitHub上で公開しています。

最初の壁:「一番下手くそ」な自分との戦い

開発実務のブランクがある中で、既存メンバーの方が事業もプロダクトも深く理解している。自分が一番下手くそな状況です。しかも最初から事業部CTOという役職で入社した、いわばパラシュート人事。「CTOなのにこんなこともわからないの?」と思われるのではないかという不安とは常に戦っていました。

ですが、わからないことをそのままにして後で影響が大きくなることの方が最悪です。入社間もない今が一番聞きやすいタイミングだと割り切って、初歩的なことも含めてメンバーに積極的に質問していきました。幸い、チームメンバーはあたたかく受け入れてくれました。

また、今はClaude CodeなどのLLMを相棒に壁打ちしたりコードを調べさせたりできるため、キャッチアップのハードルは以前に比べて大きく下がっていると感じています。

現場に戻って再発見した3つのこと

1. 解像度は「手触り」から生まれる

現場に入って改めて実感したのが、「コードこそが最新のドキュメントである」ということです。

特に金融ドメインのロジックは複雑で、スタートアップではドキュメントが充実しているケースも多くありません。仮にドキュメントがあっても、読んだだけでは「実感」として理解できない。自分で関連する機能のコードを書き、テストを通すことで初めて「あ、だからここでこの判断が必要なんだ」と腹落ちしました。

結果として、Biz側との議論でもメンバーに確認せずにその場で自信を持って答えられる範囲が増えていったのです。

情報には3つの段階があると整理しています。

  1. 報告ベース ── 伝聞による抽象的な把握
  2. 知識整理 ── タスクマップ等による構造的な理解
  3. 実体験 ── 自ら触れることで得られる文脈的な理解

マネージャーは2の段階で止まりがちですが、3まで踏み込むことで判断の質は大きく変わります。

2. 信頼は「同じ土俵」から生まれる

もう一つの大きな実感は、チームとの信頼関係です。

一緒に開発実務に携わっているからこそ、それぞれのメンバーがどういったスキルを持っていて、今どういったタスクに取り組んでいて、どれくらい大変そうかの解像度が上がりました。タスクのアサインや評価を考える際に、実感を伴って考えられるようになったのは大きな変化です。

自己満足的な部分もあるかもしれませんが、「一番下手」な自分が泥臭く質問し、一緒に手を動かしている姿勢そのものが、チームに受け入れられるチケットになったのではないかとも思っています。

パラシュート人事において「能力信頼」を示すには時間がかかります。しかし、同じ土俵で苦労する姿勢を見せることで「意図信頼」を先に構築することは、最初から取り組めます。この意図信頼を土台にすることで、チームの解像度が上がり、評価や育成の質も上がっていくという循環が生まれます。

3. 「仲介」ではなく「翻訳」が価値になる

現場を分かっているからこそ、事業に関係する判断が加速するシーンが増えました。

現場感 → 経営への貢献:

  • 障害対応では初動調査を自分で行い、状況が見えた瞬間にインシデントコマンダーとして全体指揮に回る。この切り替えの判断は、技術と全体感の両方があってこそ
  • 採用面接でも現場の実態を自分の言葉で語れるため、候補者への説得力が段違いに
  • ビジネスサイドとの連携でも、現場目線での受け止め方をイメージした上での検討や、技術的な妥当性をその場で判断できるように

経営目線 → 現場への貢献:

  • 「なぜこの戦略なのか、この機能を今作るのか」をアウトカムの視点でメンバーが納得できる言葉に落とし込む
  • トップダウンの判断が必要な時も、現場の負荷感を肌身で分かった上で「これは今必要な施策だから協力してほしい」と自信を持って言える

右から左へ情報を流すだけなら誰でもできます。しかし、両方の土俵に足を置いているからこそできる「翻訳」にこそ、CTO/EMの真の価値があるのではないでしょうか。

「任せる ≠ 離れる」という再定義

発表で最も伝えたかったのは、マネジメント ≠ 現場から離れることという再定義です。

「任せる」と「離れる」はセットで考えられがちですが、任せるからといって自分が現場からいなくなるわけではない。自分も現場に入りながらも、メンバーを信頼して任せられることは任せていく。その関わり方を変えていくことが、理想的なマネジメントではないかと考えています。

状況によって最適な形は変わりますが、意識的に行き来することが、マネジメントの健全性を保つ秘訣だと思います。

現場に入る3つのステップ

もし「そろそろ現場に入ってみよう」と思っている方がいれば、以下のステップが参考になるかもしれません。

  1. ペアプロ・モブプロへの参加 ── 現場の空気感や技術スタックを感じ取る
  2. 小さなタスクを自分で完結させる ── リファクタリングや軽微なバグ修正など
  3. 1スプリントをチームメンバーとして参加する ── 最も深い理解が得られる

いずれもClaude CodeなどのLLMを活用することで、キャッチアップのハードルを大きく下げることができます。

ただし注意点もあります。

  • 現場を奪わない ── 自分がボトルネックにならないこと。メンバーの成長機会は積極的に任せる
  • グラデーションを認める ── 結果として事業にどう貢献できるかのバランスで考える
  • 「一番下手でいる」姿勢 ── システムの詳細や特定領域の技術力はメンバーの方が高くて当然。敬意を持って関わる

懇親会で盛り上がった話:EMの「強みの凸凹」問題

登壇後の懇親会では、EMの守備範囲の広さについて印象的な議論がありました。

EMには技術力、ピープルマネジメント、プロジェクトマネジメント、プロダクト理解など幅広い領域が求められますが、すべてが綺麗に平均値を超えている人はまずいない。実際には、どこかの領域に突出した強みを持ち、その強みを武器にして戦っている人がほとんどです。

周囲もその強みを期待するし、強みがあるからこそ弱い領域があってもやっていける。とはいえ、各領域には最低ラインがあるのも事実です。

特に難しいのは採用面接でそれをどう見抜くかという問題です。限られた時間の中で、候補者の「凸」がどこにあるのか、「凹」が許容範囲内なのかを判断するのは簡単ではありません。この問いに対する明確な答えは出ませんでしたが、EMとしてのキャリアや強みの活かし方について深い対話ができた時間でした。

私自身、今回の発表テーマである「現場との接点を持ち続けること」は、まさに自分の「凸」を作り直す試みでもあります。技術の手触り感を取り戻すことで、翻訳者としての強みをより確かなものにしていきたいと考えています。

おわりに

あくまで私個人の体験をベースにしたお話であり、現場に入らなくてもマネジメントできる方は、もちろんそれは素晴らしいと思います。組織がさらに大きくなれば、私もまた現場を離れざるを得ない時が来るかもしれません。

それでも今の私にとっての最適解は、「マネジメントの原点は、現場にあった」 ということです。現場の手触りを知っているからこそ、事業や経営の目線と合わせて、解像度高く次の一歩を決められる。それが、この1年で見つけた私の答えです。

登壇の機会をくださった運営の皆さま、会場を提供してくださった令和トラベルさま、スポンサーのmentoさま、そして参加者の皆さまに感謝いたします。この記事が、現場との距離感に悩むEM・CTOの方にとって、何かしらのヒントになれば幸いです。

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